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コーチングのバリュー(42)Yahooのケース


非常にいいコーチングのケースが、Yahooさんのケースでありましたので引用します。

エグゼクティブコーチングの導入目的

Q:まずエグゼクティブコーチングについてお聞きします。ヤフーがこれを導入した目的は何ですか。A:大きくは「上級管理職のロールマッチングの早期化」が目的です。部長が、本部長になる、さらに執行役員、副社長へと昇進する。そうして職位が上がったとき、彼/彼女は、それまでと考え方を変え、行動を変え、フォロワー(部下)から新しい上長として認められる必要があります。そうして自分の新しい職位に慣れること、自分がその職位にいることに周囲と自分の両方がしっくりきていること、それが「ロールマッチングができている状態」です。ロールマッチングは新任の場合、最初はたいてい失敗しますが、それでも2年もかければ誰でも何とかなります。しかしそこで問題となるのは、今のビジネススピードを考えた場合、会社として「2年も待てない」ということです。ここで「ロールマッチの期間を短縮したい」という企業ニーズが生じます。この課題を解決するにはおそらくエグゼクティブコーチングが有効だろう、とそう考えたわけです。

外部コーチを起用することの価値

Q:「外部のコーチを使わずとも、社内で上長が直接指導すればよい」という考え方もありえます。

A:確かにそのとおりですが、内部で直接指導しようとすると、いくつかの障壁にぶつかります。まずロールマッチングが上手く行かない人は、たいてい「仕事ができる、優秀な人」です。そういう人は、以前の職位でプレイヤーあるいはプレイングマネージャーとして十分な業績を上げた結果、一段上のポジションに昇格するわけですが、しかし、そうした「プレイヤーとして優秀な人」は往々にして「指示型のマネージャー」になりがちです。

指示がきついマネージャーの元では、部下が自立的にものを考えなくなります。そうして全員が指示待ちになると、チーム全体のパフォーマンスがマネージャーの能力を超えられなくなります。そのままでは、仮にその場ではマネージャーの能力で当面の目標を達成していたとしても、「チームとしてのブレークスルー」が生じません。

しかしそのことを内部の人間、たとえば同僚がアドバイスすれば、「じゃあ、おまえはできているのか?」となるし、上長(評価者)が指摘したのでは、指示なのかアドバイスなのか不明であり、当人の納得感は低くなるでしょう。そのマネージャは「部下が育つのを待っていたら、いつまでたっても成果は上がらない、目の前の目標を達成できない」と反論するかもしれません。これはこれで正論なので追及や説得は困難です。

しかしそこで一皮むけて、新しい職位にふさわしい物の言い方、やり方を覚えると、やはりチームの業績は伸びるのです。このことを何とか新しいマネージャーに伝えなければいけません。

こういうときは、やはり外部のプロフェッショナル・コーチに頼るのが得策です。そのコーチは、単なるカウンセラーではなく、実際のビジネス現場で本部長や経営者など上位の役職を経験したことがある人が望ましい。そこに高度なコーチング技術と熱い情熱が加われば、停滞しているマネージャーの固いカラを打ち破れることが期待できます。

コーチングが有効な理由

Q:コーチングはなぜ人に変化をもたらしうるのか、本間様の考えを教えてください。

A:話を簡単にするためにティーチング(教化)との対比で考えることにします(※注釈1)。

ティーチングとは「教師役の人から有効な考え方、物の見方、ノウハウを教わること」、「他人の言葉、考え方を受け入れて自己を成長させること」ですが、この場合、教わる側に、相手(教師)の言葉を受容する準備があること、つまり「聞く耳があること」が前提になります。

先に挙げたマネージャーの場合は、「過去の成功体験ゆえに他者の言葉に耳を傾けられない状態」に陥っているわけで、このときストレートにティーチングをしても上手く行きません。やはり人間は感情の生き物であり、「こうするのが正しいので、こうしなさい」と理詰めで説くだけでは納得しないのです。

一方コーチングとは、それを受ける側が、「コーチが投げかける質問に対し、自ら考え、自ら答えを見つけること、その上で自分に対しさらに問いを投げかけること」といえます。そのプロセスの中で、自分の思考と行動の基準を、言語化、外化(externalize)していき、まず自分で自分の考えを理解し、そして周囲(他者)にも自分の考えを自分の言葉で説明できる力を身につけていくこと、それがコーチング受講者の成長です。

私自身、経営者だった頃に、10回指示しても動かなかった社員が、一つ質問しただけで劇的に変化したという例を何度か見てきました。やはり人を変えるには、外部からの教化よりも、内発的な気づきの方が有効であり、それを促進するのがコーチングなのです。

またティーチングが「知らなかったことを教える、それによりできない人をできるようにする」という行為であるのに対し、コーチングの場合、それよりは「本人がもともと持っているポテンシャルを早期に開花させる」ことが主な目的になります。なのでロールマッチングの「早期化」にはコーチングが向いているのです。

このような考えのもと、2013年にビジネスコーチに対し、社内の数名に対するエグゼクティブコーチングを依頼しました。その数名のプライバシーを尊重してこのインタビューでは委細を省略しますが、いずれのコーチングでも十分な効果が得られました。今回のエグゼクティブコーチングでは、人事部としての所期の目的を達成できたと考えています。

※注釈1:「便宜的にコーチング vs ティーチングという図式で話していますが、実際にはティーチングの中にもコーチングの要素がありますし、逆もまた真なりです。」

社内コーチ育成研修の導入目的

Q:次に「社内コーチ育成のための集合研修」についてお聞きします。これを実施した目的を教えてください。

A:ヤフーでは上司と部下が1対1で定期的に会い、大切なことを真剣に話し合うという、1on1(ワンオンワン)ミーティングを行っています。社内コーチ育成研修はこの1on1を行う上司に、対話(コーチング)の基礎技術を習得させるために実施しました。

1on1は2012年に開始し、「ヤフーの社員は原則として行うべき(=義務に近い推奨)」というミーティングとして位置づけられています。しかしこうした「業務時間を割いてまで行う活動」は、注意深く推進しないと、現場に嫌気され、取り組みが形骸化するおそれがあります。

また1on1は、参加者、特に上司の側が「対話の技術」を会得していないと、真剣な話し合いではなく、愚痴のはけ口、一方的な説教、あるいは単なる雑談の場に終わる可能性があります。

それを防ぐべく、社内で選抜した30名の管理職にコーチングの基礎技法、対話のコア技術を事前に教授しました。それを受講した上司が、正しいコーチング技術を使って部下とよく対話すれば、「1on1は良い」という定評が確立し、取り組みが社内に浸透すると期待したわけです。

現在1on1は開始から3年を経た現在、「8割の社員が週一の頻度で」実施しており、アンケート結果も良好です。またヤフー本社からグループ会社に転籍した社員が、自主的に1on1を(その義務はないにも関わらず)継続しているという事例もあります。

事前にコーチングの基礎技術を教えていなかったら、1on1はここまで定着しなかったと思います。

上司ではなく部下の満足度が有効

Q:今のお話は「コーチング研修を受けた上司のみなさんが、1on1に手応えとやりがいを感じ、それが弾みとなって1on1が活発化、定着した」ということですね。

A:いえ、逆です。コーチする上司の側ではなく、コーチされる部下の方が、1on1に手応えや有効感を感じたからこそ、「1on1は良い」という評判が社内に広がったのです。

研修受講者の上司ではなく、その先にいる部下を満足させなければならない、これは研修講師であるビジネスコーチにとって難しい課題だったと思いますが、コーチのみなさんはよくやってくださったと思います。

ビジネスコーチ(株)への評価

Q:実際に業務を依頼してみて分かったビジネスコーチ(株)への評価を教えてください。

A:まずビジネスコーチ(株)のサービス内容は「企業の人事部にとってバランスがいい」と感じています。

一口にコーチングといっても各社ごとに流儀が異なっており、中には「個人の自己実現」を重視するタイプもあります。しかしその手法で社員をコーチすると、場合によっては「あなたの自己実現のためには、このまま企業にいるよりNPOに行った方がよい」という結論に帰着することもあり、そうしたコーチングは、その品質の良し悪しとは別に、「人事部として発注する」のは少々困難です。一方、ビジネスコーチ(株)は、社名のとおり「ビジネスパーソンの組織内での成長を支援する」ことに主眼を置いており、その点はバランスが良いと感じました。

また実際にコーチングや研修を依頼してみて「柔軟性が高い」という印象を持ちました。柔軟性が高いというのは、その時その時のこちら側のニーズ、状況、事情の変化に応じて、コーチングの流れや力点を適切に変化させられるということです。自社の流儀に固執することなく、状況に応じた最適解を模索してくれる姿勢には、こちらとしては助かりました。

先輩ユーザーからのアドバイス

Q:現在、コーチングの導入を考えている企業に向けて「先輩ユーザーとしてのアドバイス」などあればお聞かせください。

A:個人的意見ですが、コーチングの場合は、通常のサービスを購入するときのようにまず企画書、見積もりを求め、比較表で相互を検討するような方法、つまり「こちらは分からないので、そちらが説明せよ」という姿勢では、上手く導入できない可能性が高いと思います。ある程度は、導入する人事部側が積極的に予習した方が良いと覆います。

というのも仮に各社の営業マンが懇切丁寧に説明してくれたとしても、どの会社のどの営業も、言うことはたいして変わらないからです。正直、私自身も、事前説明を聞くだけではコーチング各社の良し悪しは見分けられません。

しかしそれでも、大学院から今までコーチングに接する機会が多かったので、各社の「営業説明の背後にあるもの」、「各社のコーチング思想の源流、バックボーン」は何となく透けて見えます。ビジネスコーチ(株)の場合であれば「マーシャル・ゴールドスミス(※注釈2)の流れに属しているのだな」と分かり、それはある程度、判断の助けになりました。

コーチングは究極のところ「やってみないと分からない」部分がありますが、どうせ試すのであれば同じ流儀のコーチングをダブって試すのではなく、違った思想のコーチングを導入する方が、試行として有効です。そのためにも各社の流儀の違いはある程度、事前に分かっておいた方がよいといえます。

コーチングの予習については、本を読む、セミナーに参加する、コーチングを実際に受けてみる、あるいはそれが無理ならコーチングをすでに導入している他社の人事部と接する機会を得て、「実際どうなのか」「どうやって選んだのか」「どのように運用しているのか」など情報収集することをおすすめいたします。

※注釈2 アメリカのエグゼクティブコーチ。フォード、グラクソスミスクライン、ファイザーなどグローバル企業のCEOのコーチを務め、「コーチングの神様」と呼ばれる。

今後の期待

Q: ビジネスコーチ(株)への今後の期待をお聞かせください。

A:ヤフー人事部ではひきつづき「社員の才能と情熱を解き放つ」ための施策に継続的に取り組んでいきます。ビジネスコーチにはその取り組みを、優れたコーチング技術を通じて後方支援していただくことを希望します。今後ともよろしくお願いします。

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